2005年09月24日

物語のあとさき(その2)…不可測性という発見

お芝居でお客がえてして一番楽しむのは,役者が台詞を間違えたり忘れたりした時だ。
台詞を間違えた役者が慌てたり,開き直ったり,その場を取り繕ったりする行為は物語の時間を寸断し,「いま」を立ち上げてしまう。
その時間こそ小説や映画を見るのとは違ったお芝居の本質に近しいはずだ…。そのときのビビッドさをそれ自身として追求できないか。というのが出発点だ。

『内側の時間』(森田裕子)は,彼女が参加したサーカスの演目に次のようなものがあったと紹介する。
アーティストが紙飛行機を舞台上で作る。そしてそれを飛ばす。「うまく飛ぶときもある。何度やっても落ちてしまうときもある。ある日,とうとう最後まで失敗しつづけた。そしてわたしの知るかぎり,この日ほど観客がこの番組に熱中したことはない」。
 このショウにはエラーが組み込まれている。
 アーティストが意図して失敗するということではない。彼は成功しようとし,失敗に終わる。しかし,結局,アーティストにとっては成功しようが失敗しようが,それ自体は問題ではない。このショウのエラーとは失敗のことではない。
 それは不可測性ということだ。
…。なーるほど。ぼくらの辞書には不可測性という言葉はなかったな。不可測性といえば,ぼくらの芝居は不可測性の宝庫だということになる。

即興のシーン(「エドワードの部屋」とか「わたしのアソコは」ゲームとか)はもちろんだけど,演技のキメを逐一作っている場合でも,必要以上の大声やアクションを詰め込むことである種のエラーが発生することを(も)目指している場合が多いなぁ。「を(も)」というのには以下のような含意がある。
 このショウで発生するエラーには無理がない。
 エラーは「演出」ではないということだ。…(中略)…エラーは起こらない場合もある。エラーの発生それ自体が不可測なのだ。
エラーに対して開かれていること。ぼくらが野外に開いた舞台を好み,野外で突発的に起こることをできるだけ芝居に取り込もうとするのも,不可測な事態が生まれることを想定しているといえる。
といって街から遠く離れた公園が公演場所だったりすると,エラー(遠いサイレンや思いもよらず大きな車が通りすぎるとか酔っぱらいが乱入してくるとかいった)は起こらない。重要なのはエラーに頼るのではなく,エラーに対して開かれていることなんだ。
紡がれていく物語が緻密であればあるほど,エラーの発生によって時間が寸断されるのは(たとえお客が笑ったとしても)マイナスだ。エラーに対して開かれるには,芝居が構成している時間…「世界」が,エラーを許容もしくは歓迎する質のものでなくてはならない。
 エラーは現実に起こる。なにか不測の事態が発生するのだ。予期しなかった感情が発生する。驚き,笑い,緊張,落胆,そしてなによりも混乱。観客は自身が読みとりつつあった物語から疎外され,つまずいてしまう。なにが起こっているのかと観客は自問する。そして自発的にショウに参加しはじめる。こうして毎回,観客はショウの新たな創作に貢献する。…
いままでも「つまずいてしまう」ということは知っていた。だが,その後お客が「ひいた状態で眺める」のではなく「自発的にショウに参加しはじめる」というところは,この旅を終えてはじめてナルホドと思わせられる部分だ。

なにやら今回の『ベビーフードの日々』は「いままでになく/いままで以上に」お客にウケたのだった。
このウケは最初は「もしもし」のふたりが作り出す,ややベタな…と言ってわるければ「わかりやすい」情感に依っているのだと思っていた。(事実そうした感想は少なからず聞いた。)だが旅をすすめるにつれ,それもあるがそれだけじゃないと思えてきた。

宮崎の小野さんが,宮崎での公演直後のブログに書いている。「市街・野:宮崎市どくんご上演終わる
ここで「我慢を強いられる」といっているのは,森田の言う「混乱」を引き受けなければならないということとほぼ同義だろう。そのことが「テントでは観客はじつは我慢しながら芝居を作っている」という事態を生じさせているらしい…と。

そこで起こっている不可測性こそが観客と芝居との一体感を形成させるのに役立っている…という風に森田も小野さんの文言も語っているように思える。
そのような「観客と舞台との一体感の形成」というのは必ずしも目的としているわけではなかったのだ(それだけ聞くと気持ち悪いし)が,しかしとりあえず「そんなことができちゃったらしい」もしくは「そんなことをやってきたらしい」程度には自分にとってオモシロイ事態だった。
そしてそのことがなんで起こっているのかの裏付けを森田と小野さんの言葉は教えてくれた。
posted by doino at 16:18| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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