2010/02/11(4)10:54 |

『太陽を曳く馬』(高村薫)より引用

「それはまさに足跡そのもので,ほんの少し前に君がそこにいたことを数秒遅れて私が知るのです。一寸ハッとするような,気が急くような,何かを失ったような心地とともに,そのとき私が見ていたのは,数秒前にあっていまは無い何者かの存在--否,在ろうが無かろうが,正確にはふだんの身体感覚にふいに触れてくる他者という異物であり,それによって新たになる私自身の存在の感覚だったというべきでしょうか。
 この眼に見えること,耳に聞こえること,身体に感じられることが直に運んでくる世界や他者の,こうした唐突な立ち現れは,何より私に,この私がいまここに在ることを知らせるものです。」
新仮名遣いに変更している。
| 鹿児島 🌁